時代の流れと共に手術のあり方もかわる
ファッション界では年ごとに流行があります。
同様に手術にも最先端の名の元に流行があります。
例えば、悪性腫瘍の根治手術を例にしましょう。
私が医師になった頃は、できる限り取り残しを無くすための拡大手術が基本でした。
例えば乳がんの場合、乳房やその周囲の組織を全て切除して再発をできる限り少なく
する乳房全摘が推奨されていました。今では、切除部位はできる限り小さくして、
化学療法や放射線治療を組み合わせた乳房温存手術が推奨されています。
腹腔鏡手術の未来
最近の手術の傾向の一つに、腹腔鏡手術があります。
手術創が小さく、術後の見た目や回復の速さを考えると有用な手術方法です。
以前は良性の卵巣腫瘍や胆石の手術などに限られていましたが、最近では悪性
腫瘍の根治術にも適応があります。
いずれロボット手術に行きつくかもしれません。
10年後の最先端はどうなっていくのか予測できません。
縫合10分、傷一生
一方、手術の創部縫合に関しては、美容外科的発想が遅れている気がします。例えば産科領域の帝王切開では、胎児の存在から腹腔鏡手術になることはありえません。
切開法には、下腹部を縦に切る正中切開、下腹部のできるだけ下方を横に切る横切開があります。これらの工夫はされていますが、外来で患者さんの創部を見るとケロイドが強い方も多くおられます。
私の勤務医時代のポリシーの一つは、「縫合10分、傷一生」。
帝王切開の手術時間はせいぜい30~50分程度です。
手術創は、真皮縫合をしっかりしないとケロイドが発生しやすくなります。
例え縫合に10分余分に時間をかけても、しっかりと真皮縫合をすればケロイドはほとんど発生しません。
手術は時間短縮を競うのではなく、いかに患者さんのためになるか、
この点は今もこれからも変わることはありません。