Vol.154 2020.10.05 回想法 ~思い出を今日の力に~ 

~・◆  回想を生きる力に ◆ ・~

昔のことを思い出すというと「ああ…昔はよかったなあ」とため息をついているような、後ろ向きなイメージはないでしょうか?

筆者が奈良県民俗博物館の主催した“民具の力、回想法”に参加したのは10年程前のことです。会場の古民家には懐かしい道具がいくつか並んでいました。懐かしい生活道具
その中に買い物かごがありました。
エプロンをした母の姿、
交わした何気ない会話
「お買い物行くよー」
一緒に出かけた市場の風景がふっと蘇ってきました。

懐かしく、そしてじわーっと温かな気持ちになったのを覚えています。

その事をきっかけに私の回想への興味は深まっていきました。

記憶はかけがえのない財産であり、回想することはとても豊かな時間です。
ただ思い出すだけでなく、過去を振り返ることが現在の力となり、未来へとつながる。
そんな回想の魅力をご紹介します。

~・◆  回想法のはじまり ◆ ・~

回想法は、1960年頃にアメリカの精神科医のロバート・バトラー氏が提唱した心理療法です。

それまでは高齢者が昔の話を繰り返しすることは否定的にとらえられていました。
今を生きることが難しいので昔に逃避している、
繰り返す話は小さいときのことが多いので幼児がえりをしている、
役に立たない非活動的なことだと。

しかしバトラー氏は診療のなかで、

思い出話しをする高齢者は多く、その様子はとても生き生きとして表情も輝いてくることや言葉数も多くなることを数多く体験しました。そして、回想することには、高齢者の生きる力を引き出すポジティブな意味がある、ととらえなおしたのです。

日本には1980年代の後半に野村豊子さんにより伝えられました。専門家が行う心理療法だけでなく、福祉施設や地域活動で楽しく語り合う会(アクティビティ)として行う場合があります。

~・◆  思い出を引き出す懐かしい道具の利用  ◆ ・~

回想法では、思い出を引き出すための刺激やきっかけとなる、懐かしい生活の道具や写真、映像などを利用します(回想トリガー)。すると、記憶の底に沈んでいた思い出が、その時の情景、匂い、ワクワクするような思い、くやしかった思いなども次々と思い出され、しあわせな気分になり心が穏やかに落ち着いてきます。

メンコS42年 蝋石(ろうせき)-東京中央区-S28年
昭和30年代 めんこ遊び 昭和30年代 ろう石遊び
2 (3) 2
昭和30年代~ 炊飯器 昭和30年代 ブラウン管テレビ
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昭和30年代 月光仮面 (司朗仮面) 昭和40年代 小さな恋のメロディ

~・◆  良い聴き手が記憶の糸口をつかむ支援 ◆ ・~

回想法には、個人回想法とグループ回想法があります。グループ回想法では、リーダーとコリーダー2名が参加します。聴き手は、良い聴き手となるよう訓練を受けます。そのなかで最も大切なことは、語り手に尊敬の念をもち、受容、共感する態度をもつことです。

自分の話をおもしろそうに聴いてくれる人がいると、より楽しく語ることができ、記憶の引き出しも開きやすくなります。もちろん思い出には哀しいこともあり、過去は変えることはできません。ただ、人に話すことでその思い出を少し違う見方ができることはあります。

思い出すことには意味があります。だけど、思い出を語るかどうかはその人が決めること。
回想法としてすべての人が思い出さなければいけないものではありません。

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