話題の映画【モリのいる場所】の主人公・熊谷守一(くまがいもりかず)をご存じでしょうか。飄々とした風貌、名誉や金銭に無頓着で文化勲章も辞退し、清貧のなかで生涯好きな絵を描き続けたことから、伝説の画家、仙人とも呼ばれています。晩年の30年ほどは、一歩も自宅から出かけずに、木々が生い茂る庭で猫、鳥、花、昆虫など小さな生命を飽きることなく観察し、描いて過ごしていたそうです。
下の写真は、「熊谷守一つけち記念館」の入館チケットと百日草の絵葉書です。
守一の作品には猫だけでもいくつもの作品があり、どこかユーモラスでほっこりとした気分になります。
その人柄があらわれるエピソードを紹介します。
父の猫への接し方は、普通に人が 『飼う』 というのとは少し違っていて
猫の身になって猫がこまらないような環境をつくることに心をくだいていました
(長男・黄さんの回想「熊谷守一の猫」より)
だからこそ、猫くんはこんなにも安心しきって、のんびりした表情をしているのでしょうか?
「蟻は左の二番目の足から歩き出すんだよ」
(「熊谷守一人と作品」より)
まるで科学者のような鋭い観察眼ですね。
映画でも庭に筵をひいて寝転がり、蟻たちをただひたすらじーっと見ているシーンがありました。一見なんの苦労もなく描いているようですがこうして長い観察を元に作品が生まれてくるんですね。
守一の絵といえば明るい油彩画のイメージがありますが日本画の作品も。右は「蟻」。芽吹いたばかりの双葉の力強さと休みなく働く蟻の勢いのある姿が組み合わさり、賑やかな様子と守一の蟻LOVEが伝わってきますね。
それにしても30年間庭の散策とは、さすがに飽きないのでしょうか?
この植えこみのぐるりの道を、草や虫や土や
水がめの中のメダカやいろいろなものを見ながら回ると、
毎日回ったって毎日様子は違いますから、
そのたびに面白くて、随分時間がかかります。
(『蒼蝿』より)
守一の常識にとらわれない自由で豊かな生き方、
何気ない言葉の数々にふれ、すっかりファンになった編集隊は、守一の故郷、恵那郡付知村(現:岐阜県中津川市付知町)にある「熊谷守一つけち記念館」を訪ねました。
木曽の山々を望む自然豊かな付知町です。
とてものどかな景色が広がります。町を流れる付知川は、別名「青川」とも呼ばれ、今ではめずらしい、護岸工事があまりされていない貴重な清流です。
付知川の畔にある『熊谷守一つけち記念館』。出迎えてくれたのは、やっぱりあの猫くんです。
1階展示室では、守一の初期の作品から晩年の作品まで観賞できます。順に観ていくと、画風が変わっていく様子がよくわかり、「命」「自然」を描き続けた画伯の生命力を感じることができます。
2階は、画伯の手作りの煙草入れなど愛用の生活道具が展示されています。
守一は一時期、ふるさとの山で、山の中から木を切りだす厳しい労働(ヒヨウ)に就いていた事があり、その仕事ぶりを伺うことのできる郷土の歴史絵巻物などもありました。
美術館を楽しんだ後は、守一も若い頃に散策した絶景「付知峡」に立ち寄りました。
森林浴の森「日本100選」にも選ばれた付知峡の散策路の入口です。
瑞々しい新緑と光が心地いい散策路 | つり橋はけっこう揺れます |
木立のなかを歩くととても清々しくて、日頃のストレスもスカーッと消えてしまうようです。
これが森林浴の効果というものでしょうか。
風も爽やか、土と緑の匂いに包まれます。
急な坂道を下っていくと、川のせせらぎが聴こえてきました。
現われたのは、白い清涼感のある美しい観音滝。名前のとおり、やさしく静かに流れ落ちます。
さらに下ると今度は勢いのある豪快な不動滝が見えてきました。急な崖っぷちで足がすくみます。
それでも踏み出して見ずにはいられない、引き寄せられるような神秘的な雰囲気がありました。
観音滝 とても美しい流れです | 不動滝 滝つぼは透き通るように青い |
上流には巨岩が点在。 飛沫をあげ流れる様はみていてあきません |
いいオトナですが… 川遊びしたくなります |
「熊出没注意」え~! できれば岐阜のクマモンには会いたくない |
人が落っこちるユニークな標識も |
美しい森を五感で感じ、清流に癒され、豪快な滝と自然をまるごと体験できた旅となりました。
標識のように道が険しいところもありますので、歩きやすい服装がおススメです。