その 9 40代最後の年の瀬に

師走、師も奔走するあわただしい季節の解釈ではあるが、なぜか私は空気の澄み切った落ち着きを感じる。この季節、平日の午前中に人気(ひとけ)の少ない唐招提寺や秋篠寺をひとり訪ねたくなる。凛とした空気の中で、奈良の歴史の大きさや、寺院のもつ独特の香りを味わうのは密かな私の楽しみである。十津川育ちの私は、 大都会の中では長く暮らせそうにない。

40代最後の年の瀬に、私の産婦人科臨床医としての人生を振り返ってみる。奈良医大卒業後大学院に進み、京都大学ウイルス研究所と沖縄での研究活動。奈良医大付属病院助手、榛原総合病院医長、県立西宮病院医長、済生会奈良病院部長と数々の病院に勤務し、この間環境問題の啓蒙活動、漢方やアロマセラピーなどの代替療法、分子整合栄養医学への傾倒など様々な興味を抱き、医療以外の経営にも携わったこともある。特に済生会奈良病院での12年余りの勤務は、私を産婦人科臨床医として成長させてくれた思い出深い病院である。

これまで、良きにつけ悪しきにつけ言葉には言い尽くせない様々な出来事と、多くの出会いがあった。訴訟の多い産婦人科に入局し、最初に教わった責任回避のムンテラ(患者さんへの説明)。たった一人の医長としてやりがいと責任感の大きさにとまどった最初の病院勤務。研究のノウハウや手術の技術、そして医師として真摯に責任を受け止める姿勢を教えていただいた恩師の先生方。自身のライフワークを模索し続けた日々。

今素直に言えることは、医師として、ひとりひとりの患者さんに全身全霊で向き合うという当たり前にしてもっとも難しいこと、この原点に回帰してこれからの日々を送ろうと40代最後の年の瀬に考えている。

今年の8月、東京での研修中に素敵な出会いがあった。絵手紙作家の瀧下むつ子さん白峰さんご夫妻である。この世に生かしていただいている恩返しとして、 人々を勇気づける素敵な作品をご夫婦で制作されておられる。私もご夫妻の作品に勇気づけられている1人で、特に気に入っている詩をご紹介させていただく。

『心の灯』
誰かの為の 心の灯になりたい
たった一人でもいい 私が必要だよと
言ってくれる人が 居れば それでいい
誰かの為に 役立つのなら 私は生きられる

これまで医師として人として、もがきながら自分の道を探し続けてきたが、これからの人生は、この作品のように生きることができれば本望である。

来る新年、弥生の頃、患者さんにそんな場を提供したいという思いから、奈良朱雀の地で私自身の理念を具象化する。中野司朗レディースクリニックの開設である。
たった一人でもいい、私が必要だよと言ってくれる人が居ればそれでいい。

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