その 3 早起きは三文の徳

今日は珍しく朝早く目覚めた。夜中の12時を過ぎないと仕事に身が入らない私にとって朝が苦手なのは至極当然のことで、それが今日に限ってさわやかな目覚めは何故か。『早起きは三文の徳』とはよく言ったもので、今日は朝から新しい発見があった。いつものように散歩に出かけたが、散歩コースからちょっと入ったわき道が裏山へと続いている。ここは時間も早いことだし、わき道がどこに続いているのか確かめてみよう、と裏山へと分け入った。田舎育ちの私にとって、なんだか懐かしい匂いがする。周りは雑木林が続き、こんな近くに人の手が入っていない自然が残っていることに驚きを感じ、少年時代のわくわく感がよみがえる。「スタンド・バイ・ミー」よろしく、ちょっとした冒険気分を味わい、つかの間の少年時代を楽しんだ。ここは秘密の場所にとっておこう。

新鮮な気分で散歩から帰り、いつもの日課どおりの産婦人科外来業務が待っている。
「○○さん診察室へお入り下さい」。
ふと目を向けると、はてさてどこかで見かけたような。40前後の清楚なご婦人が笑顔で嬉しそうに入ってくる。
「先生お久しぶりです。以前に△△病院で1人目と2人目の子どもを先生に取り上げていただきました」。
最近とんと記憶力に自信がない私ではあるが、思い出した。勤務医時代に難産のすえ、帝王切開で分娩した○○さんではないか。聞けば、私が転勤した後子宮外妊娠を経験、その後3人目のお子さんを出産し、最近ご主人の仕事の関係で近所へ越してこられたとのこと。今日は一番上のお子さん、今ではもう14歳になっているそうだが、最近初経を迎えたが生理不順が心配で相談に来院されたのである。懐かしく昔話を交えながら診察を終えた帰り際、
「今日は娘の相談もあったのですが、本当は先生のお顔を拝見したかったんです」。

なんとも嬉しい言葉。医者になって20数年、まだ親子二代の出産には立ち会った経験はないが、自分が取り上げたお子さんの相談を請けることになろうとは感無量である。
「産婦人科もすてたものではないか」。心の中でつぶやく。
今日はなんだかもっといいことが有りそうな予感がする。
明日も早起きしてみようか。

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